VOL.3「真似上手」

18 Jun,2021 #美容迷子は煌めいて


綺麗の正解って、何?
「ない」から見つからないのか、それとも「ありすぎる」から見つからないのか。
本当の綺麗を見失っている「美容迷子」も多いのではないでしょうか?
美を創り出すアーティストとして、美を分析するエディターとして、それぞれの立場で綺麗を見つめてきた濱田マサル×松本千登世の、こっそり聞いてほしい「ここだけの話」。
まるで「因数分解」するように、綺麗のピースを集めます。



VOL. 3「真似上手」



松本千登世(以下CHITOSE):
この連載のタイトル、「美容迷子は煌めいて」。
言葉のセンスに私はジェラシーを感じたんですが(笑)、そもそも、美容迷子が多いというマサルさんのひと言から、連載が始まったんですよね。
「パーソナル顔診断」を続けていらっしゃる中で「私ってどうですか?」「私って大丈夫ですか?」と迷子になっている人が多いという……。

濱田マサル(以下MASARU):
ジェラシー!? 恐縮でございます(笑)。
そうなんです、そうなんです。
私って? と、まわりから見た自分がどうなのかを聞きたがる人が多いんですよね。
「どうなりたいの?」ともう一歩踏み込むと、その中に「○○○○さんみたいになりたい」という人がいます。
彼女たちに共通しているのは、美容好きであるということ。
美容の世界には、綺麗を体現している「カリスマ」がたくさんいるからなのかもしれません。

CHITOSE:
真似をしたい対象は時代とともに変化するけれど、真似をしたい気持ちは変わらないんですね。
長く女性誌に関わってきた立場としては、「真似をしましょう」と明言こそしないものの、時代が求める女性像をその都度、ビジュアル化したり具体化したりして、そうなれるよう、そう見えるよう、真似の「誘導」をしてきた部分もある気がします。

MASARU:
僕たち、ヘア&メイクアップアーティストも、メイクアップという「見た目」ばかりを提案して、肝心な「メンタル」の部分を伝えきれていなかったと思うんです。
メンタルとは、本当の意味でどういう人でありたいか、どういう人になりたいかという、その人自身。
綺麗になりたい一心で僕たちが提案するメイクアップを頑張ってきた人たちが、年齢を重ね、自分をアップデートできない、結果、綺麗がわからなくなる……。
大人の女性としての階段を上る「心構え」や「方法」を伝えていなかった、と反省しているんです。

CHITOSE:
恥ずかしい経験を思い出しました。
20代のころ、年上の女性に強く憧れて、この人みたいになりたいと真似をして、エルメスの腕時計を購入。
ところが……、私にはまるで似合わない!
手の骨格にも合っていなければ、ファッションのテイストにも合っていない。
はっきりと気づかされました。
表面的な真似は、違和感が際立つだけ。
綺麗に手が届かないどころか、むしろ遠のくのだと。
その時計は母が愛用しているので、結果オーライなんですが、高い高い「授業料」になりました。

MASARU:
いやいや、でも授業料を払っただけの価値があります、きっと(笑)。
僕は、真似をするのはむしろ、いいことだと思っていて。
自分の綺麗を模索するのに必要だし、そうなりたい人が見つかるなんて素晴らしいとも思います。
たとえば、職人でもアーティストでも、真似という「目標」を掲げることは大切でしょう?
真似をする「過程」で得る、感情や発見、テクニックなど「努力」がその人を目標に近づけるのだから。

CHITOSE:
確かに、私の「憧れ」もそれを真似したことによって生まれた「違和感」や「恥ずかしさ」は、私にたくさんのことを教えてくれました。
彼女の何に憧れたのかを観察し、自分がどうなりたいかを分析し、本質を摑まないといけないと学んだ……、それが大事なんですね。

MASARU:
真似は目標であって、ゴールじゃないと思うんです。
真似がゴールになると、それが叶ったときに、空虚になりかねないと思うんですよね。
あれっ、自分って何だったんだろう? 自分らしさって何なんだろう? と。
恋愛や結婚もそうだと思うんですけど……、人生において、ゴールだと思っているものは、スタートであることが常。
時間を重ねるほどに、求めるものも変わるし、満たされたときの心情変化もあって。
綺麗はゴールのない課題、だからこそ楽しいのかもしれませんよね。

CHITOSE:
以前、取材をした女優さんが「綺麗になりたいというより、綺麗でありたい」とおっしゃっていて、はっとさせられたことがあります。
彼女にとっては「今日の綺麗」を積み重ねていくことがすべてなのだと言って。
日々の過程を大事にして、積み重なった先に自分らしさがより濃厚に、より強固に存在したら、素敵ですね。
真似に支配されるのでなく、真似を力に変える人=真似上手でありたい。
改めてそう思いました。

MASARU:
真似は、ある意味、明確な「絵」になり、行動のプランが見えますよね。
その人にとっての綺麗への道筋を見つける指針になって、それが自分らしさのアップデートに繫がればいい。
僕たちがその背中を押せれば、と思います。

TEXT : CHITOSE MATSUMOTO