VOL.6 「失敗を恐れない人」 

15 Sep,2021 #美容迷子は煌めいて


綺麗の正解って、何?
「ない」から見つからないのか、それとも「ありすぎる」から見つからないのか。
本当の綺麗を見失っている「美容迷子」も多いのではないでしょうか?
美を創り出すアーティストとして、美を分析するエディターとして、それぞれの立場で綺麗を見つめてきた濱田マサル×松本千登世の、こっそり聞いてほしい「ここだけの話」。
まるで「因数分解」するように、綺麗のピースを集めます。



VOL. 6「失敗を恐れない人」



松本千登世(以下CHITOSE):
コロナ禍を経験して、自分がまるごと「ふるい」にかけられ、価値観を一から問いただされたような気がしています。
だからでしょうか、最近「自分自身に投資するなら?」という質問をよく受けるんです。

濱田マサル(以下MASARU):
投資??面白いですね!
ちなみに松本さんは、投資か否かは別としてもっとも高い買い物って、何ですか?

CHITOSE:
じつは……、「ソファ」なんです。
15年以上前、インテリアショップでひと目惚れをして、清水の舞台から飛び降りる気持ちで購入したのですが、今になって、私の投資は間違っていなかったと自負しているんです。
ソファにもたれて映画を見るときも、家族や友達が酔っ払ってうたた寝しているときも、ああ、私はこの「時間」を積み重ねたかったんだと思えるから。
それに、古くなるほどに味わいが増し、新しいときよりも格好いい「顔」になっていることも、エイジングに対するポジティブな気持ちに繫がるから。
マサルさんのもっとも高い買い物は何ですか?

MASARU:
僕は。。。親の「家」なんです。。笑
当時は投資という発想とは全く違ったんですが……。
じつは僕、お金への執着があまりない傾向にあって。
お金を払ったものに対して「期待」がない、というのかなぁ。
経験からいうと、直接的にそのときの自分の欲を満たすためのものは飽きる傾向にあるみたいで。
他の誰かの「何か」を満たし続けるものは、魅力が劣化しない気がします。

CHITOSE:
確かに。
ただ、私は世代的に、少し背伸びをして「なりたい未来」を思い描く部分があったのですが、今は違いますよね。
無理なく、無駄なく、今の充実を積み重ねて、その先に自分があるという……。

MASARU:
いずれにせよ、自分にとっての投資が成功か失敗かは、他人が決めた物差しでは計れない。
自分にしか決められない自分なりの価値観を構築することが先決だと思います。
そのためには、失敗することが近道。
ところが、今、「失敗したくない」人が多いですよね?

CHITOSE:
失敗したくない、恥をかきたくない、叱られたくない……。
そうならないように、挑戦をしない、冒険をしない。
裏を返せば、「優等生タイプ」が多いとも聞きます。

MASARU:
皆、いい意味でも悪い意味でも目立ちたくない。
平均点を取ろうとするんですよね。
メイクもそう。
ベースが崩れたり、眉が非対称だったり……、そんな失敗をするくらいなら、控えめなメイクにしておきたいという。
確実なら投資するけど、確実じゃないなら投資しない、みたいな。

CHITOSE:
以前は、選択肢がない分、迷いがなかった。
正解が明確だから、それに皆が向かっていけばよかったんですが、今は、選択肢がありすぎて、迷うんですよね、きっと。

MASARU:
僕たちメイクアップ・アーティストも松本さんのようなライターも、「何でも自由に」と言われると、戸惑いますよね。
ある程度、ルールやテーマなどの「縛り」がないと、表現できないこともあると思うんです。
それと同じで、個性や多様性が求められ、ある意味、自由であることを強いられて、皆、「フリーズ」している状態なのかもしれません。

CHITOSE:
SNSの普及で情報や知識はシャワーのように日々降ってきて、失敗を避け、表面的な成功を手にする「術」がいっぱいあるから、より失敗を避けることができる気がして。
ちなみに、フリーズしたままでいると、どうなるんでしょう? 私たち。

MASARU:
失敗をしない限りは「?」が残り続けると思うんです。
失敗には、気づきと学びがあり、成功には、それがない。
失敗の数だけ成長の鍵をゲットできて、その鍵を手にした人が成功の扉を開けることができると思うんです。
失敗をしないと綺麗になれない、幸せになれない、好きか嫌いかさえもわからない……。

CHITOSE:
確かに、失敗をしないように生きる人生は、つまらない!
日常の小さなことなら、始められる気がします。
失敗を恐れずに、ちょっと変えてみる、ちょっとはみ出してみる。
その「ちょっと」が「もっと先の自分」に繫がるのかもしれません。

TEXT : CHITOSE MATSUMOTO