VOL.7 「美容を楽しむ」 

27 Dec,2021 #美容迷子は煌めいて


綺麗の正解って、何?
「ない」から見つからないのか、それとも「ありすぎる」から見つからないのか。
本当の綺麗を見失っている「美容迷子」も多いのではないでしょうか?
美を創り出すアーティストとして、美を分析するエディターとして、それぞれの立場で綺麗を見つめてきた濱田マサル×松本千登世の、こっそり聞いてほしい「ここだけの話」。
まるで「因数分解」するように、綺麗のピースを集めます。



VOL. 7「不自由の中の自由」



松本千登世(以下CHITOSE):
コロナ禍を経験して、美容に対する「価値観」が変わった気がしています。
「誰にも会わない」「どこにも行かない」という経験で、まわりや社会からの「見た目」をどれだけ意識していたかを思い知らされた。
その結果、「見られる自分を作る美容から解放されて楽になった」という人、「見られなくてもときめきや心地よさなど自分のために美容をしたいと気づいた」という人、さまざまだけれど、それぞれに美容の役割や価値に対する考え方に変化があったのかな、と。

濱田マサル(以下MASARU):
中でも、マスク習慣が、美容に対する意識の「角度」を大きく変えましたよね。
美容との関わり方が人それぞれ違ってきたというか……。
この状況は永遠に続くことではないし、時代とともに変化をしていくものだと思うけれど、人間の適応力ってすごいから、すぐに慣れる。
最初は負担だったはずのマスクが、今は「便利」なものになったり、「不可欠」なものになったりしている気もしていて。
メイクアップもスキンケアも、面倒なことへの答えが「マスクがあるから大丈夫」とされている気がして、ならないんです。

CHITOSE:
確かに!
最近、若者たちの間で「顔パンツ」という言葉がトレンド入りしているという話を聞きました。
マスクが当たり前になったことで、口元を見られるのが恥ずかしい、表情を読み取られなくて安心できる、顔の下半分で「残念」と思われるのが怖い……。
「人前で脱げない下着のようなもの」、だから、顔パンツ!

MASARU:
えーっ、そういう意味なんですね!
やはり、それも見た目が気になるという気持ちの裏返し。
僕自身は、見た目を綺麗に整えることって、じつはとても簡単なことだと思っていて。
日々のルーティンを見直したり、生活の仕方を変えたり、ちょっとしたことで綺麗に見せることは可能。
ただ、一方で、美容は心まで含めて、自分を高めるものだと思うんですよね。
面倒なことをいかに楽しめるか、というところに真価がある。
だから、まずは、マスクをはずしたときに綺麗に見えるようにするには?と考えてみるといいんじゃないかな。
マスクの下で、いかに自分の気持ちを上げるか、という視点で、美容と関わってほしいと思います。

CHITOSE:
ちょうどパンデミックが起こる少し前、クリスマスだからと女性ばかり10人でビストロに集うことになったんですが、そのとき、一緒に行くメイクアップアーティストの友人が、少し早く待ち合わせて、普段はできないようなドラマティックなメイクをしてくれたんです。
太めに入れた黒のアイラインにも、しっかり塗った濃密な赤リップにも、すごくときめいた。
ああ、美容の力ってすごいと感動しました。
思えば、知らず知らずのうちに、コンプレックスやエイジングをカムフラージュするという意識でずっとメイクと付き合ってきたような気がして。
視点を外に置くのでなく、自分自身に置いて、もっと素直にメイクの力を楽しみたいと思わされた経験でした。
それを機に、「自分を楽しませよう」と思うようになった気がします。

MASARU:
素敵な話ですね。
ただ、だからと言って、いつでもどこでも、メイクをしたほうがいい、お洒落をしたほうがいいとは、言いきれないなあ、とも思っているんです。
煌びやかなメイクって、肉体的にも精神的にもエネルギーがないと、できないですよね。
逆にエネルギーを奪われることがある。
だから、余裕がない、元気がないときは、無理にメイクをしようと思わなくてもいいと僕は思います。
したくないときは、できないときは、しなくてもいいよ、と言いたい。

CHITOSE:
メイクをしない日があっていい。
そう思うことで、逆に、メイクを楽しめる気がしてきました。
ノーメイクも、ナチュラルメイクもドラマティックメイクも、すべてメイクのバリエーションととらえると、美容は義務でなく楽しみだと改めて思える気がします。

MASARU:
先日、街中で偶然、ある女優さんにお目にかかったんですね。
彼女はノーメイクで、おそらくオイルでスキンケアしたままだった気がするんだけど、それが艶やかで、とても素敵だった。
スキンケアさえもメイクになりうるんだ、と思ったんです。

CHITOSE:
スキンケアさえもメイクにできるって、素敵!
ルールやセオリーにはめ込むのでなく、自由に美容と関われたら理想的ですね。
美容の力を素直に信じて、頼れる人でありたいと改めて思いました。



TEXT : CHITOSE MATSUMOTO