Vol.5 平元敬一さん<前編>

08 Sep,2021 #プロの領域。プロの聖域。

Vol.5

guest
ヘア&メイクアップアーティスト 平元敬一さん




長年にわたり第一線で活躍するクリエイターをゲストに迎え、ファッションからビューティ、ライフスタイルまで。それぞれのこだわりや美のフィロソフィーについて語り合います。







ヘア&メイク同士、ジェネレーションや活躍の舞台が異なるふたりの接点とは?
平元さん(以下KEIICHI)

世代は違いますが、濱田さんの活躍ぶりはHEADS所属時代からよく知っていました。

濱田さん(以下MASARU)

僕もかれこれ30年近く、雑誌や広告、ショーなどで平元さんの活躍をずっと見てきました。モードからコンサバティブまで幅広く、独自のスタイルとバランス感覚を持っている人。今日は、浮き沈みの激しい業界で常に第一軍で活躍されている平元さんに、メジャーであり続ける秘密を聞きたいと思って。

KEIICHI 

そう言われるとドキドキしますね(笑)。自分のスタイルはこうだって主張できるものがないので…。ただ、振り幅が広い、引き出しが広いのが僕らしいのかな。それは、ヘアサロン「スタジオV」での修行時代に、ショーや雑誌、広告に舞台などで活躍する先輩たちを間近でみてきたおかげかもしれません。

MASARU

「スタジオV」が一斉を風靡していた時代ですね。

KEIICHI 

最初にアシスタントとしてついたのが、現在でも、黒柳徹子さんのヘアを担当している松田コウイチ氏で、故・須賀勇介氏に師事していた方です。



MASARU

80年代から90年代の華やかだったころ。学生時代の僕はたくさん刺激をもらいました!

KEIICHI 

TOKYOコレクションがスタートして、世界トップクラスのスーパーモデルをヘアメイクしていた時代。当時はモード誌もたくさんあって、個性ある作品が求められ、ガッツリ作り込むヘア&メイクが多かったですね。

MASARU

その当時から考えると、肌作りもメイクもヘアも大きく変わりましたね。

KEIICHI

今はリアルクローズの時代だから、作り込むヘア&メイクは不要、求められることが少なくなりました。

MASARU

確かにリアルクローズの服にコテコテのヘア&メイクはありえない。僕がヘア&メイクとして活躍していた頃は、かろうじてモードな作り込みが許されていたのかもしれません。

KEIICHI

今は作り込みたいところ、磨き上げたいところをぐっと我慢することも増えました。ファッションの一部としてヘア&メイクを求められるから、ラフに仕上げないとリアルにならない。そういう意味でジレンマはあります。

MASARU

でも、時代が変わっても、平元さんは同じスタンスで活躍されている。クオリティのブレもないし、僕は自分ができないことをやってのける人を尊敬していますが、平元さんはまさにそのひとりです。

KEIICHI

嬉しいですね。常に意識しているのはニーズにあわせてフレキシブルであること。広告だと主役である女優やタレントさんの個性を、ファッションではファッションをメインに。僕のメイクはこうというこだわりがないのは、そういうスタンスだからかもしれません。

MASARU

お話を聞いてふと気付いたのは、当時から30年たった今でも、ヘアメイクという職業はヘアメイクの枠を超えていないという事実です。

KEIICHI

そうかもしれません。デジタル化されても変わっていないですね。一瞬で消したり変えたりできるヘアメイクの良さが、かえって技術の低下を招いているという懸念もあります。


平元さんはお仕事以外にフィールドワークがあると伺いました。
MASARU

すばらしい和髪の作品を手掛けていますよね。そのきっかけはどんなところにあったんですか?

KEIICHI

カンヌ映画祭のレッドカーペットを江戸後期の着物を着て歩くという依頼があって、ならば、カツラではなく地毛でチャレンジしたいと思い、調べはじめたのがきっかけです。

MASARU

実際にお披露目は?

KEIICHI

残念ながら実現せず、作品として写真で残しました。そして素材や資料を調べる過程ではまったのが浮世絵。とくに歌麿呂が描く顔、女性像の美しさに刺激され、京都まで道具や素材を探しにいったこともあります。

MASARU

何年くらい続けているんですか?

KEIICHI

3,4年くらいですね、15,6人の和髪の作品を残しています。



MASARU

特別な道具が必要なんですよね?

KEIICHI

そうですね。なかでも髪をとかしつける、つげ櫛に魅了され、浅草の専門店に通いました。

MASARU

普通のブラシとつげ櫛のいちばんの違いは?

KEIICHI

とかすだけで髪にツヤが生まれます。静電気はおきないのに。でも、今どきのレイヤーが入った髪では効果を実感しにくいと思います。厚みのある、いわゆるボリュームロングに最適です。

MASARU

以前から銀座のお姉さま方のヘアセットに興味があるんですが、このジャンルは特殊技能ですね、テクニックと才能が必要な特別な領域です。


和髪やヘアセットには、特別なスキルが必要なのですか?
KEIICHI

普通のヘアサロンで教わるものではなく日本の伝統芸能の域。基本の技術があれば可能ですが特別なスキルも必要。手先が器用なほうがいいと思います。


和髪の作品をとおして、現代人に伝えたいこと、女性たちに還元できることは?
KEIICHI

髪を携え、櫛でとかす仕草には女性らしさがあふれています。ブラシを使う動作とは違って、櫛をとかす所作、素敵だと思う美しい仕草を伝えられたら、と思います。


現代女性のライフスタイルから失われているものかもしれませんね。
MASARU

女性らしさを語ると、ジェンダーギャップでは?という意見が出ますが、女性らしさも男性らしさももともと存在するもの、それをあえて否定することはないし、美しさを枠にはめて語る必要はないと思います。

KEIICHI

同感ですね。自分の感性でいいと思います。

MASARU

ストレスリリースの方法は?

KEIICHI

自然の中に身を置くようにしています。都市にいると忘れがちですが、空や雲を見たり、緑を見たり。人工的なものより自然なものに意識を向けるように。ちゃんと自然と向き合っていると匂いや音、温度など、五感で季節の移り変わりがわかる。恩師のひとりから、「故郷のこの星空をちゃんと覚えておかないと」と言われたことを鮮明に覚えていて。若い頃は、“なに言ってるの?”(笑)みたいな感覚でしたが、いまはすごくよくわかります。言われた一語一句、忘れたことがありません。


後編は9月22日(水)UP予定
TEXT :SAWAKO ABE