VOL.9 「プロフェッショナルか否か」 

26 Apr,2022 #美容迷子は煌めいて


綺麗の正解って、何?
「ない」から見つからないのか、それとも「ありすぎる」から見つからないのか。
本当の綺麗を見失っている「美容迷子」も多いのではないでしょうか?
美を創り出すアーティストとして、美を分析するエディターとして、それぞれの立場で綺麗を見つめてきた濱田マサル×松本千登世の、こっそり聞いてほしい「ここだけの話」。
まるで「因数分解」するように、綺麗のピースを集めます。



VOL. 9「プロフェッショナルか否か」



濱田マサル(以下MASARU):
ここ5年の価値観の変化には、本当に驚かされます。
皆が一様にひとつの正解を追い求めていた時代から、ひとりひとりが異なる自分だけの正解を見つける時代へ。
メディアのあり方が変わったことも、大きく影響しているのかもしれません。
雑誌やTVなど「一方向」の「提案」だったけれど、SNSが普及して「双方向」の「情報」になって。
もしかしたら、もう、「プロフェッショナル」と言われる人たちは求められない、プロがプロとして生きづらい時代なのかな、と思ったりもします。

松本千登世(以下CHITOSE):
まさに!
私も同じようなことをお話ししたいと思っていました。
じつは最近、私のまわりでよく、「プロフェッショナルが必要なくなった」という話題が上るんです。
1年ほど前でしょうか、あるフランス人のインタビューを聞いたんですけど、その女性が「一般人が有名人になりたがり、一方で、有名人が一般人に近づきたがり、その結果、境目がすっかり溶け込んでしまった」とおっしゃっていたんです。
マサルさんがおっしゃるとおり、双方向のコミュニケーションが容易になったことで、注目されたり、話題になったり、つまりは「バズる」が評価基準になった今のムードが、「プロ不要論」に繫がったのかな、と。

MASARU:
僕自身、メイクアップの提案をしなくなって、もう5~6年が経つんですが、それはもう、「プロの提案は要らない」と思ったから。
例えば、メイクアップブラシも、アーティストがモデルに向けるのでなく、自分が自分に向けるほうが「わかりやすい」「真似しやすい」。
プロ目線から自分目線に「反転」しているんですよね。
美をとことん追求するプロのテクニックでなく、誰でも簡単にできるコツが求められている……、という。
この時代のムードを喜んで迎え入れる気持ちでいないと、取り残されちゃうんだなあ、と思うんです。

CHITOSE:
メイクアップだけでなく、ファッションも、写真も……、そして、料理はその傾向が顕著なのかもしれません。
「プロ中のプロ」ではなく、「プロのようなアマ(チュア)」のほうが、手間がかからない、テクニックが要らない、それでいて、見栄えがいい、だから人気になる、支持を得る。
もちろん、それはそれで素晴らしいことだけれど、私は、もの創りの現場にいるひとりとして心動かされるのは、圧倒的なプロフェッショナルの仕事ぶり。
つねに、さらなる高みを目指しているプロが創る本物に触れていたいし、それを見極める目を持っていたいと強く思っています。
鶏が先か卵が先か、という話かもしれませんが、発信する側が研ぎ澄まされた本物を創り続ければ、見る目が育つ、受信する側が本物に見極める目、感動する心を持てば、創り手が育つ……、理想論ですけど、ね。
いずれにせよ、何が起こるかわからない今を生き抜くには、自分が「ぶれない」こと、時代と「ずれない」ことが大事。
私の場合は、ぶれないけれど、ずれがちだから(笑)、気をつけなくちゃ。

MASARU:
ぶれない、ずれない……、なるほど!
ただ、それは、確かな価値観や信念がもともとある人に当てはまることのような気もするんですよね。
それが見つかっていない人には通用しないのではないか、と。
美容も恋愛も、仕事も結婚も、「ひとつの正解」はないもの。
それは、今に限ったことではなくて、源氏物語の時代、いやもっと前からそうなんです(笑)。
だから面白いんだと思うんですけど、ね。
多様性、個性の時代、変化する時代、確固たる自分らしさを築いていないと生きづらい時代……、そんな今を生き抜くためには、まず、自分が好きなもの、興味のあることに、勢いでいいから飛び込んでみて、一生懸命やってみるのがいいのかも。
そこから、自分の「核」が次第に見えてくると思うから。
環境を変えると景色が変わる、そうして見えてくる自分があるはずです。

CHITOSE:
賛成です!
ひとでもことでもものでも何でもいいから夢中になる何かを見つけると、自分が色濃く見える。
環境にも時代にも翻弄されない自分が少しずつ養われると思います。

MASARU:
多様性という言葉に飲み込まれないで、そうとは言え、時代の流れに背を向けるのでなく。
新しい価値観に寄り添いながら、未来を創って若い人を導いていくことも、僕たちの使命なのかもしれませんね。

TEXT : CHITOSE MATSUMOTO