VOL.10 「本当に、お洒落であること」 

30 Jun,2022 #美容迷子は煌めいて


綺麗の正解って、何?
「ない」から見つからないのか、それとも「ありすぎる」から見つからないのか。
本当の綺麗を見失っている「美容迷子」も多いのではないでしょうか?
美を創り出すアーティストとして、美を分析するエディターとして、それぞれの立場で綺麗を見つめてきた濱田マサル×松本千登世の、こっそり聞いてほしい「ここだけの話」。
まるで「因数分解」するように、綺麗のピースを集めます。



VOL. 10「本当に、お洒落であること」



松本千登世(以下CHITOSE):
VOL.9でも話題に上った、ここ5年の「価値観の変化」。
ファッションやお洒落に対しても、顕著に感じます。
個性と多様性の時代になって、「まわりにどう見られたいか」から「自分がどうありたいか」にシフトしたと言われているけれど、じつのところ、まだまだ「見られたい自分」から完全には逃れられていない気もします。

濱田マサル(以下MASARU):
そうですよね。「好きなファッション」と言いながら、本当に自分は何が好きなのかわからない。というケースも多いですよね。
だから、トレンドの色や形、誰かがいいと言うもの、誰もが知っているブランドなどを着たり持ったりして、「承認」され「承認欲求」を満たすと言う流れが今のお洒落であり、トレンドでもありますが。
僕がいつも思うのは、ファッションもメイクもどちらも簡単に「脱げる」毎日「リセット」出来るものですよね、自分の好き!がわからない人は、失敗を怖がらずに、どんどんトライして欲しいな!と。

CHITOSE:
お目にかかるたび、いつも、マサルさんの着こなしは「マサルさんらしい」と感じます。
「好き」がわかりやすいんですよね。
私にとってお洒落な人とは、まさに好きがわかりやすい人。
好き、を極めている人は、自分を楽しませているように見えます。

MASARU:
自分を楽しませている!
たしかに、とても大切な事であり、お洒落の意味は、本来そこにあるのかもしれませんね。
僕にとって、お洒落な人とは、服に着られていない人。と言うのがあって、服や小物、もちろんヘアやメイクも、それだけが主張するのでなく、「その人らしさ」の要素になっている事。
僕はいくらトレンドと言われても、着られない、着たくない「苦手なもの」があるんです。。。
例えば、最近流行の、「グリーン」もそうだけれど、鮮やかな色はあまり着ないかも。食わず嫌いも多いですが。じつは「黒」は着ないんですよね、僕にとって黒は「緊張」の色だから。

CHITOSE:
そうなんですね。
私にとって緊張の色は「白」で、黒が「安心」の色なんです。
学生時代、卒業時に皆がくれた寄せ書きに「いつも黒い服に身を包み……、」という表現があるので、そのころから、すでに(笑)。
当時は、「大人っぽく見られたい」がいちばんの理由だったんですが、そのうち、手抜きも汚れも目立たないから「黒=楽」と思い始めて……、すると、30代後半から40代前半にかけては、黒の「反撃」に遭いました。
疲れて見えたり、老けて見えたり、自分と黒の関係性が変わったのを痛感すると同時に、それまでのようには、黒にときめかなくなっていて。
今は、どの色より大好きなのだから、と思い直して、素材の質感や艶感、首元の開きや全体的なシルエットを細かくチェックして、黒を生き生きと着る工夫をしています。

MASARU:
僕は、逆に、白をよく着るんですよね。
強さがありながらも、抜け感がある気がして……、爽やかな自分でいたいときには、白。
ただ、服は色に加えて、素材と形、この3つが重要で、その掛け合わせで印象が大きく変わるから、単純な色だけにとらわれないほうがいい気もするけれど。
ちなみに、お洒落を楽しむ上で「トレンドを意識することは不可欠」という考え方について、松本さんはどう思いますか?

CHITOSE:
尊敬するスタイリストの女性が、以前、「お洒落でいるためには、新聞を読むこと」とおっしゃっていたことがあって。
例えば、災害が起こったときに、煌びやかな服を着たいと思わないとか、景気が上向いたら不思議と明るい色が着たくなるなど、世界の情勢や、社会の動向をつぶさに感じ取っていないと、本当のお洒落は成立しない、と。
そういう意味では、その裏にある時代の気分を自分なりに捉えたいとは思うから、トレンドは意識しています。
ただ、ファッションもメイクも、つねに表面的なトレンドを追いかけて、その通りに着たり塗ったりするのは、自分の存在がそこになくて、真のお洒落ではないのかなあ、と。

MASARU:
僕は、景気とファッションの関係性は切っても切り離せないと思うんです。
景気がいいときは、素材も上質なものが多くなるし、縫製の工程数も多くなるしデザインも装飾的になり、自然と素晴らしいクオリティーの服ができ上がる。
一方、今は、鶏が先か卵が先かはわからないけれど、「安い服しか売れない」から、「安い服しか作らない」と負のスパイラルが生まれる気がして。
もちろん、高い=いい、では必ずしもないけれど、年を重ねた時、自分にとって「いいもの」にこだわって長くつき合うほうが、自分が喜ぶ、自分らしいお洒落が見つかっている様に思いますね。

CHITOSE:
大賛成!
あれこれ10枚持つよりも、大好きな1枚とじっくりゆっくりつき合いたい。
そういう1枚には、迷わず投資できる自分でありたいと思います。

MASARU:
そうですね。
そして、長くつき合うためには、基本的に上質でシンプルがいちばん!
白いシャツとか、素晴らしい素材・縫製のパンツ。美しい仕上げのローファーなど普遍的なものを自分らしく着られれば、それがもっともお洒落な大人なのかもしれませんね。正解があるとすれば、「自分を楽しませている」ですね。

TEXT : CHITOSE MATSUMOTO